米司法省がテザー(Tether)について調査、暗号資産市場にとってのリスクになりえるのか?
テザー(Tether)は暗号資産(仮想通貨)業界最大のステーブルコインとして長らく利用されています。2014年に発行が開始されてからビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)がUSDTのペアで取引され、最近はDeFi(分散型金融)の分野でも利用されています。
2021年7月に、米司法省はテザーの幹部が銀行詐欺を働いた可能性に注目した調査を行っていることが明らになりました。テザーは「当社は協力および透明性重視の取り組みの一環として、米司法省を含む法執行当局とは定期的に開かれた対話を持っている」と発表し、司法省はコメントを控えました。この報道があった当日テザーは1ドルから乖離して一時ディスカウントされて取引されました。
テザー(Tether)に関わる懸念
テザーに関連するさまざまな懸念は過去に定期的に発生しており、今回が初めてではありません。
発行企業テザーがUSDTを不正に発行して市場を操作しているのではないか、裏付け資産がないのではないかという疑念がその主です。2019年4月にはニューヨーク司法当局(NYAG)が、テザーの関連企業ビットフィネックス(Bitfinex)が8.8億ドル(約約960億円)の顧客資産を消失をカバーするためにテザーの準備金を不正に利用したとして調査し、後に裁判へと発展しています。また、当時のテザーの監査企業であるFriedman LLPとの関係も解消したことが懸念に拍車をかけました。
しかし、このテザーとニューヨーク司法当局の裁判は2021年2月に和解しました。和解の必要要件として罰金1,850万ドルの支払い、テザーの裏付け資産であるトレジャリーを四半期ごとにニューヨーク市民に向けて開示することです。今回筆者が指摘したい懸念は後者のテザーの準備金です。少なくとも準備金はドルと1:1ではないことが明らかになっています。このときの合意に基づいて最初の開示で明らかになった資産内訳が以下です。
出典:Tether
テザー(Tether)の準備金の内訳
2021年3月31日時点で、テザー社は準備金の約76%を現金および現金同等物、その他の短期預金、コマーシャルペーパーで保有しています。この「現金および現金同等物、その他の短期預金、コマーシャルペーパー」と呼ばれるカテゴリの76%の内訳を掘り下げると、コマーシャルペーパーは65%のシェアを占めています。受託者預金が24%、リバース・レポ・ノートが3.60%、国庫短期証券が約3%で、現金は3.87%のみです。
一般的にコマーシャルペーパーは、企業が短期で資金調達するための無担保の約束手形のことを指します。つまり、テザーの裏付け資産のほとんど全てがこのコマーシャルペーパーで、現金はごくわずかでほとんど融資されているということです。しかし貸付先企業のクレジットやどのような条件で貸付しているか、あるいは既に回収不能になっている残高があるかどうかなどは何も分かりません。
極端な想像ではコマーシャルペーパーの相当部分が回収不能な資金になっていてもおかしくなく、第三者の検証はできません。2021年7月時点でテザーの時価総額は620億ドル(約6兆8,000億円)で、2021年だけで3倍近く増えています。
テザーがこのようなステーブルコインであっても利用されているのは、基軸通貨の慣性効果であると読み取れます。基軸通貨の慣性効果とは、ある通貨が、いったん国際的に使われるようになると、多くの人々にとってその通貨を利用することが便利になるため、ますます使われるようになる現象を指します。テザーは暗号資産の取引市場にとっては最も流動性があるステーブルコインで慣性効果が十分に働いています。
しかし銀行法に縛られず実質的な銀行運営ができ、ステーブルコインのユティリティがあるゆえ低い調達レートで資金を調達することができるテザーの立場を考えると、常にモラルある融資や運用をできるかは疑問の余地があります。そしてそのリスクが顕在化して、時価総額が日本円にして約7兆円のステーブルコインが崩れ始めると、それはまさしくブラックスワンになりえるはずです。
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