初のRollupのレイヤー2「Arbitrum One」がローンチ
近年イーサリアム(Ethereum)のブロックチェーンは混雑によりネットワーク手数料が高騰しており、スケーラビリティ問題が顕在化しています。レイヤー2とは、トランザクションをブロックチェーンの外部で安全に処理しようとする技術の総称です。これまで主要な技術として、「ステートチャネル(State Channel)」や「プラズマ(Plasma)」、「オプティミスティック・ロールアップ(Optimistic Rollup)」、「ZKロールアップ(ZK Rollup)」などが注目されてきました。
レイヤー2とは?
イーサリアムなどのブロックチェーンを一層目(レイヤー1)として取り扱い、これらの技術をその上の層で処理するというような抽象表現から、レイヤー2と呼ばれています。これらの技術は2016年頃から研究開発が活発になっていますが、2021年上半期時点でも一般のユーザーがレイヤー2を気軽に使用するほどの状況にはなっていません。時間を要している理由は、トランザクションをオフチェーンで処理しながらも、セキュリティと検証性が高い状態を構築することが技術的に困難であるためです。
しかしながらレイヤー2の長い研究開発期間は徐々に実を結びつつあります。少しずつ利用しやすいレイヤー2のフレームワークが登場していることで、今後数ヶ月から1-2年で多数のユーザーがレイヤー2を利用することになるだろうと予想する声も多いです。
その1つとして2021年5月29日に、「アービトラム(Arbitrum)」がローンチしました。ArbitrumはRollupと呼ばれる種類のレイヤー2です。
Arbitrum(アービトラム)とは?
Arbitrumは、プリンストン大学のチームを中心とする「Offchain Lab」によって開発されています。Arbitrumの特徴は、EVMの機能に全て対応した初のOptimistic Rollupであるという点です。開発者は、これまでのイーサリアムのソースコードをそのままレイヤー2環境に移植することができます。
Arbitrumのチームが5月29日にローンチしたのは、Arbitrum Oneと呼ばれるレイヤー2です。Arbitrum自体は技術名の総称で、「Arbitrum One」は彼ら自身がホストするレイヤー2という立て付けです。先に開発者向けにアクセスできるようにして、ユーザー向けには数週間後に公開される予定です。
Arbitrumのレイヤー2ではトランザクション手数料をETHで支払いますが、手数料はイーサリアムのメインネットの50分の1程度になる見通しです。トランザクション手数料が必要な理由は、イーサリアムメインネットへcalldataを定期的に記録するためです。この手数料はイーサリアムメインネットの手数料によって決まるので、L2ユーザーも影響を受けることになる点は注意が必要でしょう。
Arbitrum Oneのローンチ初期においてはArbitrumのチームが開発や保守をするが、その後分散化のフェーズに移行するとのことも発表されています。つまり、将来的なガバナンストークン発行を示唆していると言えます。
Arbitrumは、イーサリアムのメインチェーン上にデプロイされるスマートコントラクトを介して実行されます。デポジット(Bondと呼ぶ)があれば誰でもオペレーター(レイヤー2のノード運用者)になれます。このオペレーターは、オフチェーンでトランザクションを処理します。その後、トランザクションとステートルートが含まれたブロックをイーサリアムメインネットに提出します。
Arbitrumの特徴的な点は、このように処理されるオフチェーンのトランザクションに対して、オペレーター外のユーザーはこのブロックをダウンロード・検証し、不正を発見した場合、不正の証明を行うことで、不正行為の無効化と攻撃者への懲罰を行うことができます。これを「Fraud Proofs」と呼びます。つまり、衆人による監視を行い、レイヤー2のオペレーターが不正した場合、懲罰を与えることができるというのがこのレイヤー2のコンセプトの根本です。
同じくEVM互換のバイナンス・スマート・チェーン(Binance Smart Chain)などのエコシステムの拡大速度を考慮すると、EVM互換のレイヤー2もエコシステムが相応のスピードで成長すると期待されます。2021年下半期はレイヤー2の成長が期待されます。
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